じんじんする。
感覚の問題だった。怪我なんて慣れっこだし、こんなことは日常茶飯事だし、野球も彼も好きだから一緒にいるのだ。別に構わない。
でもこれとそれとは別なのだ。矛盾しているけれど、そうなのだ。
舌でちろりと確かめるように触れると、口の中がざらざらして、皮がつるんと剥けた不味いリンゴのようにじゃりじゃりと皮膚を溶かし続けているのがわかる。
味覚は血独特のしょっぱさで汚染されていて、ただ呼吸のために少しだけ開いた唇がれろれろした。
ゆっくりと膨らんでいく左のほっぺたの皮。それにだって、いつまで経っても慣れないことには変わりない。
人から思いっきり殴られる。それは痛いからやるのだ。俺が。だから、痛い。
嗚呼でも、今は少しだけそれを忘れていてもいいような気がした。
ほんの少し舌を伸ばせば届くような位置に、あんたの顔がある。
「ヒバリ」
にこり、と俺は笑った、はずだ。でも自信ない。
あんたはもしかしたら知らないかもしれないけど、痛いのに笑うのは結構疲れるものなんだぜ?
人を安心させるためとか、そういう理屈でもなきゃ努力してなんとかなるようなモンでもない。だから、疲れる。
筋肉が筋張って、涙腺に直結しそうな痛み。感じる事なんてあんたは無いんだろう。少なくとも俺みたいにそんな道化じみた笑顔、あんたは作らなくていいんだから。
「ヒバリ、」
もう一回呼称しても、雲雀は俺の方を向かない。
挑発的な丸い物を従えて、ただじっと床を睨んでる。少しだけ伏せられた睫毛。それを綺麗だと思う。
壁に追い詰めて。あんたが、そんな俺の罠にあっさり掛かってくれるなんて、あり得ない。知ってるよ。なぁ。
顎を丁寧に掴んで、俺はその真っ黒い瞳を捕らえた。濡れた瞳。
見せつけるようにしてぎゅと閉じられた唇にキスしてやると、雲雀は諦めたように目を閉じて、それから血の味に顔を顰める。
でもわかってるよ、そのうちその血があんたの深い深い海の底をじんわり汚しては狂わせるって。
どうでもいいことを思いながらも、自分の血を舌で掬って、雲雀の奥歯に塗りこんでやった。
苦しそうに顰められた眉を、俺はこっそり盗み見た。
発掘山ヒバ。拍手にしようとして諦めた。
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