「好きです」
何の感情も篭めずにその背中に投げ掛けると、流石に彼は振り向いた。冬の坂道は予想以上に寒く、吐いた息が視界の端を白く染める。
「は」
「好き、です」
ああ、癖というのは恐ろしい。僕はそんな場合でも無いくらい寒さに(或いは自分の言葉の意味に)震えていたにも関わらず、少し先に居る彼に対して自然と笑いかけてしまった。確かに、眉間に皺を寄せて訝しげにこちらを見てくる彼の表情は少しだけ可笑しかったけれど、そんなことで笑ってしまえるほど、僕は今幸福なんかじゃない。
「………」
坂に沿って立ち尽くしていた足の指先が、凍ったみたいにじんじんし始めた頃に、彼は大きな溜め息と一緒に白い空気を吐き出し、「そうかよ、」とうんざり言い捨てた。憎たらしいくらい、そのほっぺたは白い。僕はその様子を眺めてからゆっくりと目を細めて、思ってもいないのに「えぇ」、なんて納得してしまう。愚かしくて堪らなくなる。
「そりゃあどうも」
彼はそれだけ言うとまた前を向く。僕は吐息だけで苦笑すると、気付かれないように声に出さずに呟いた。
きみも、思い知ればいいのに。
(この辛さを)
***
当初と違うモノに成り果てた古キョン。
勇気を出してストレートに言葉を紡いでみても、彼には信じてもらえない。
(それは神が望むからなのか)
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