耳に飛び込んで来る音が痛いくらいに甲高くてうんざりする。ノイズ音みたいだ。壊れた自転車のブレーキを坂道で思い切りかけたみたいな、ああいう耳障りな音。実態があれば切り裂いてしまいたい。先日失ったばかりの利き腕に巻きつけた剣を見ながらそんなことを思う。
夏が来る前の雨降りの日だ、今日は。雲がねっとりと、黒い固まりかけのインクみたいな顔をして空を塗り潰している。振り出すのだろうかそろそろ。真っ黒な雨を?それとも涙みたいに透明な?くだらない。
卒業式、なんて格好のつけたモノはこの学校には存在しなかった。個々に卒業したことを証明する紙が適当に配布されるだけだ。あとは荷物を持って各々出ていく。でも呼びようが無いから、生徒はみんな、この日を“卒業式”と呼んだ。
数える程しか来ていないこの学校に、スクアーロ自身は何の未練も無かったから、正直そっちのほうが気が楽だ。それにこれからの目的もある。あいつに尽くせばいい。道を開けばいい。魅せられたあの目の先を照らせばいい。やることは至極単純明快。考えただけで少しだけ恍惚とした。
それなのに耳鳴りは止まない。雨音と合わさって不協和音を奏でると、頭の中がズキズキ痛んだ。
それが嘘をつくなと言ってることくらいわかっていたから、余計に嫌になる。
本当は会いたかった。
「…ディーノ、」
『もう終わりにしようよスクアーロ』
光の足らない部屋の中で、その金髪はひどく燻った火の一番熱いところみたいに不安定に輝いた。
月の綺麗な真夜中だった。開けた窓から入る綺麗な空気はひんやりと冷たくて、その言葉はまるで神聖な儀式の爪痕みたいだった。よくわからないけど。
『俺は泣きたく無いよ』
『だからどうせなら今、笑ってさよなら言いたいんだ』
「…へなちょこ」
その日、そういえば絆創膏を見付けられなかった。トレードマークみたいにいつも頬とか鼻の頭についていた白いソレ。あれを貼ってやるのが自分の役目で、へなちょこと言ってやるのも自分だった。
『“卒業式”に、俺は来ないよ』
悲しそうに笑う彼を、もしかしたら初めて見た。思いの外それはとても綺麗で、情けないことに何も言えなかった。あいつがおでこにそっと唇を寄せた時も身動き一つ取れなかった。
『さよならスクアーロ』
「『好きだった』」
呟いたら涙が出そうになる。抱きしめてしまえばよかったなんて、馬鹿みたいだ。
(俺は俺を裏切れ無い、あいつはファミリーを見限れ無い)
だから、今は。今日まで通じるこの空間だけで通じる嘘をもう一度だけ舌に乗せて吐き出した。
「好きだった」
Title Thanks!!『Fascinating』
http://id12.fm-p.jp/2/Fascinating/
スクディノ。もうちょっとちゃんと書きたかった。
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