「健っ!」
引き止めた意味なんて、わからなかった。でも健気で不器用で臆病な彼が初めて、自分で進むと言ったから。だから、
「何?姉さん」
「…あんた……」
ああねぇ、そんな風に笑わないで。私はあんたが憎くて憎くて憎くて憎くて堪らなかった。あんたみたいな疫病神、早く死んじゃえばいいってずぅっと思ってた。
汚い自分が嫌だった。綺麗なあんたが眩しかった。それが偽りなのを知らないあんたが愚かしくて愛おしかった。
なんて、馬鹿な子。
そうやって嘲るだけでいられたら、どんなに、どんなによかったろう。
「……あんたは、」
ねぇそれでも。あんたは。
「……シアワセ?」
問わずにはいられなかった。そんな人生で、そんな運命で。
でも、健は一瞬顔を訝しげに歪めただけで。こんな、偽りだらけの、作り出す度に大事な何かを欠如するこの世界で、曇り無い答えを口にした。
「ああ。」
「…本当に?」
「…少なくとも、世界が綺麗じゃないことくらいは知ってるさ。でも、俺はあいつらや、……姉さんが、それでもこの世界に生きたいっていうなら、その幸せを守る。それが俺の、」
俺の幸せだから。
あの時に泣いてしまえばよかった。全て打ち明けてこの子を抱き締めて逃げてしまえばよかった。そう思っても悔やんでも、
その笑顔が、忘れられなくて
(後悔さえさせてくれないなんて、酷すぎる仕返しね)
懐かしい-。唯一終わらせた長編。書き直したい。
素直なのに真っ黒な感情を抱えてる少女と、捻くれてる部分はあれど、基本的に綺麗ごとしか知らない少年の物語。
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