好きだなんて子供じみた感情を彼が許すはずが無いことくらい知っていたから、俺はずっと距離を置いてきたつもりだったし、女とも寝たし人も殺した。彼が知らない俺になれば自然と距離が出来るだろうなんて思ったせいで、今でも苦手な煙草を持ち歩くのを止めることが出来ないでいる。蝕んでいく煙が侵食していくヤニ臭さが、もどかしさとか平常心とか、そういう当たり前のものをゆっくりと作り上げていくのは奇妙な感覚だった。平然とそういったものを依存することで欠落を選んだ自分には、特に。
だからいけなかった。今日がたまたまあいつの帰宅日で、俺の仕事が些かきつくて、煙草を買いに行く機会を逃して。それが悪かったんだ、きっと、だから。
「俺にしとけ、ツナ」
呟かれた声音が嫌に低くて泣きそうになる。彼は俺が無を言わないのを知っている。知っているから俺は頷けない。
どうしたら彼に気付かれないように涙を零せるのか、知らない俺はただ圧倒的に不利だった。
Title Thanks!!『不在証明』
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意味の分からない多分リボツナ。
多分荒んだツナが書きたかった。
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相変わらず口の中に感じた不快な自分の血の味に慣れず、眉をひそめる。この間治ったばかりなのに、また頬の裏側辺りを傷付けてしまったらしい。上手い避けかたなんてわからないから仕方が無いけれど。
「消えてよ」
夏の暑さに紛れた冷たくて鋭い声に、俺は小さく息を呑んだ。上を向く勇気なんて本当に一ミリも残ってなくて、それでも自分のだらし無く垂れた腕を見ながら声を出して無理に笑った。涙が出るくらい頬の筋肉がぐちゃぐちゃになったような錯覚を覚える。
「嫌だ」
紡いだ言葉はお世辞にも綺麗じゃない。子供が癇癪を起こしたような掠れた喘ぎ声みたいに、ヒバリにはなんの意味も持たないだろう言葉。それでも構わなかった。
俺は世界から忘れられるよりあんたに覚えて貰えないほうが、よっぽど辛いんだ。わかるだろう?
「ヒバリ」
こんな何の力も要らない呼び声だけでもいつか思い出してくれればいいのに。そればかりそればかり。
(自分の血の味であんたを思い出す俺は、)
(泣きそうなあんたに気付け無かった俺は、)
息抜き山ヒバ。