※パラレルヒバツナ注意
雲雀さん、と呼び掛けてからしまったと口を手で思わず塞ぐ。正確に彼の眉が3mm程跳ね上がったのがわかってしまい、冷や汗がつぅと背中を垂れていくのを感じる。
…また、やってしまった。半年やそこらじゃ、長年の癖は簡単には消えない。
「…綱吉?」
「は、はぃ…っ」
ついでに言うなら、こうして二人で食卓を囲むという現状は、自分達をよく知る人達から見れば、さぞかしシュールな光景だろう。だって、学生時代虐められたりパシリにされたりが多く一時期は名前を文字ってダメツナとまで呼ばれた綱吉と、最強の不良の頂点であると同時に大手企業の跡取り息子である恭弥だ。天と地程の差がある二人は、どちらかと言えば交わるようには思えないし、あるとしても、こんなにのほほんとした状態で食事を共にするなんて、誰が想像出来るだろうか。
いや、ほのぼのとはいえ、自分の些細なミスのせいで、今綱吉の体感温度は先程自分で作った温かなスープに口をつけた時より確実に三度は下がっているが。
「なまえ」
薄い唇から紡がれた三文字は、少しばかり鋭利だ。
綱吉はうぐっ、とつまりながらもしどろもどろに訂正した。
「き、恭弥さん…」
口に出してしまったらしまったで、思わず赤面してしまう。
(ぅわ、恥ずかしい。)
普段呼ぶ分にはそこまでではないのだが、改めて直されるとなんだか気恥ずかしい感じだ。
「…何回目?」
「ご、ごめんなさい…」
咎めるような恭弥の声に、綱吉は謝罪の言葉を口にする。
この下の名前呼びというのが存外くせ者で、出会ってから半年前のあの日までずっと呼称は「雲雀さん」で通してきたので、なかなか転換するのに苦労しているのだ。
「君さ…」
箸をぱしりと茶碗の上に置き、恭弥は一度嘆息する。
「僕の奥さんな自覚は?」
「あ、ありますっ」
そう、なのだ。今綱吉の姓は“雲雀”。いや、色々不便なので今でも元の沢田で名乗ってはいるものの。
だからこそ、籍を入れたあの日、恭弥は自分のことを下の名前で呼ぶよう強制したわけで。
「恭弥さん、ごめんなさい…」
本格的にしゅんとうなだれた綱吉をしばらく恭弥は観察した後、音も立てずに立ち上がる。
そうして綱吉の後ろに回り込んで抱きしめた。
「!?き、きょ…」
「許さないよ。今日はこのままベットに直行」
「えぇ?!俺まだ半分しか食べて無いのに!」
「僕は食べ終わったからいいの」
「良くないですよ!俺が!!」
「…聞き分けの悪い子は嫌いだよ?それに罰なんだから、君の意見なんてしらない」
突然低くなったトーンに、綱吉はぶるりと体を震わせた。嫌うという単語を言われるとどうしても弱気になってしまうが、それでも逃げ道を探す。
「で、でも俺…あした、フェアの担当で朝はや……」
「じゃあ君の会社に僕直々に休みの連絡入れておいてあげるよ」
「いや、でも…!」
「四の五の言わないでくれる?それ以上言うならこの場で押し倒すけど」
「…………」
後始末の面倒が頭を過ぎる。別に行為自体が嫌なわけでは無いが、恥ずかしさは拭えないわけで。
…明日がせめて休みの日ならよかったのにと思いながらも、綱吉は抵抗を諦めた。
「そ、いい子だね」
「やっぱり抵抗しておくんだったかなぁ」と綱吉が後悔するのは、そう遠くない夜明けだった。
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これをベースに今いつかのキリ番やってます(遠い目
成瀬さまへ!(ごめん駄目だった
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